聖書註解ペトロの手紙一
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本邦初の本格的註解書!
本註解は国内外の同書簡の研究、註解書を踏まえつつ、ギリシア語原文から綿密に釈義。テキストの影響史=解釈史までも射程を広げて考究している。本書によって初期キリスト教の成立背景、その諸問題を新たな角度から考察できる――。
キリスト教はいつキリスト教になったのか。初代教会はイエスやパウロの伝承から何を受け継ぎ、何を棄てたのか。I ペトロ書は最初期のキリスト教を知る上できわめて重要な文書である。I ペトロ書に目を向けることによって、キリスト教の始原の輪郭がより明確になる。
巻末に「ペトロの手紙一」(私訳)を全文掲載
〈関連本〉
『聖書註解 ヘブライ人への手紙』川村輝典
【著者紹介】
吉田新(YOSHIDA Shin)
1978年、静岡県生まれ。2005年立教大学大学院博士前期課程修了。2010年ハイデルベルク大学にて神学博士号(Dr. theol.)取得。現在、東北学院大学文学部総合人文学科教授、同大学キリスト教文化研究所所長。
【著編書】
『バプテスマのヨハネ』(教文館,2012 年),Trauerarbeit im Urchristentum. Auferstehungsglaube, Heils- und Abendmahlslehre im Kontext urchristlicher Verarbeitung von Schuld und Trauer, Göttingen 2013.
『福音とは何か 聖書の福音から福音主義へ』編著,教文館,2018 年),『苦難と救済 闇の後に光あり』(編著,教文館,2020 年).
目次
凡例
第1部 序説
第1章 I ペトロ書の構造と成立状況
1 アウトライン,主題と内容
1. 1 アウトライン
1. 2 主題
1. 3 内容
2 I ペトロ書の著者,成立場所・年代,受け取り手について
2. 1 著者
2. 2 成立場所
2. 3 成立年代
2. 4 受け取り手
2. 4. 1 宛先の地域について
2. 4. 2 受け取り手について
第2章 I ペトロ書の文学的,神学的特性について
1 伝承と文学的特性
1. 1 伝承について
1. 2 文学的特性について
1. 3 �汽撻肇軆颪魯妊�アスポラ書簡か
2 神学的特性について
3 �汽撻肇軆颪筏賁鸚蚕颪琉�用
4 �汽撻肇軆颪肇僖Ε軆餞覆隆愀�
第3章 �汽撻肇軆颪亮匆餬院げ板躔韻砲弔い�
1 新約文書の社会訓,家庭訓の起源
2 �汽撻肇軆颪亮匆餬院げ板躔韻竜’修汎胆�
3 新約文書の社会訓,家庭訓の内容
3. 1 コロサイ書
3. 2 エフェソ書
3. 3 牧会書簡
4 �汽撻肇軆颪亮匆餬院げ板躔韻旅渋�
5 �汽撻肇軆颪亮匆餬院げ板躔韻判�末論
第2部 註解
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
補論:皇帝崇拝について
補論:�汽撻肇�2:17 の影響史について
補論:報復の放棄について
補論:「意識()」について
補論:�汽撻肇軆颪砲�ける「キリスト者()」について
補論:新約文書における長老の役割について
参考文献
あとがき
「ペトロの手紙一」(吉田新訳)
著者の言葉
Iペトロ書と聞いて、どのようなことを思い浮かべるだろうか。おそらく、私たちにとって、この手紙は福音書やパウロ書簡などと比べると、接する機会があまり多くはない新約文書の一つであろう。長年、聖書に親しんでいる人でもその内容をよく知らない、または読むのを避けている方もいるかもしれない。
しかし、Iペトロ書は最初期のキリスト教を知る上で極めて重要な文書である。キリスト教はいつキリスト教になったのか。これは、初期キリスト教史研究において、いまだ明確な回答を得られていない問いの一つである。本書ではIペトロ書の成立時期を後80年代から90年代に推定したが、おそらくキリスト教はこの時期に徐々にユダヤ教から分離独立し始めたものと考えられる。それゆえ、Iペトロ書を読み解くことによって、最初期のキリスト教徒らの実態、そして、彼、彼女たちがいかなる問題に取り組んでいたのかを知る手がかりを得ることができる。イエスやパウロの伝承から何を学び、何を受け継ぎ、何を棄てたのか。これらの問いをIペトロ書に向けることによって、キリスト教の始原の輪郭がより明確になる。
この時期、キリスト教はさまざまな問題と直面している。ユダヤ教との軋轢、周囲からの弾圧、迫害、共同体内部での異端との闘い、そして終末の遅滞への対応などである。とりわけ、終末の遅滞をどのように受け止めるかというのは、最も大きな問題の一つである。イエスやパウロにとって、終末の到来はその宣教活動の核心であった。Iペトロ書に留まらず、後1世紀後半から2世紀前半に成立したキリスト教文書において、終末の遅滞は先の核心を激しく揺り動かす事態であった。そのため、この時期のキリスト教にとって、これへの対応は喫緊の課題である。
さらに、Iペトロ書が後世に与えた影響を知るとき、決して等閑視することのできない事柄を含んでいる。それは、本書で詳しく検討したが、政治的権力者への服従、奴隷への勧告、女性の男性への従属などの内容である。今日においてもなお、このテキストがキリスト教徒のみならず、多くの人々に及ぼしている否定的な影響を私たちは無視することはできない。それゆえ、なぜこのような文言が生まれたのか、という問いとともに、テキストの批判的な解読は欠かすことのできない課題である。
釈義とはテキストの歴史的背景を解き明かし、その本来的な意味を探る作業である。本書のような註解書の類は、まず、この作業を極限まで正確に突き詰めることを優先すべきであろう。だが、テキストと向かい合う者は同時に、自らの歴史的状況に立脚し、それをいかに読むべきかという問いへと導かれていく。さらにこの問いかけは、テキストがどのように読まれてきたのかという考察へと促される。そのため、テキストの影響史=解釈史までも射程を広げて考究しなければならない。本書において、臆面もなく自らの専門分野を踏み出して、わずかな部分だが影響史研究を試みた。
聖書は人々の発展に積極的に寄与した一方で、このテキストが内包する計りしれぬ影響力は、私たちの日々の営みに悲惨な影を落としてきたこともまた事実である。とりわけ、「戦争と戦争の噂を聞く」(マルコ13:7)時代が再び到来した今、過去の解釈者たちの歩みを検証することがよりいっそう求められている。
戦時下では政治的指導者(ほとんどの場合、男性)に絶対的な忠誠を誓わせ、命を捧げさせ、かつ社会的に弱い立場に置かされた人びと、たとえば女性、老人、子ども、病人、障がい者、外国籍を有する者、性的少数者などを、さらに追い詰める事態へと向かっていく。かつて、聖書の言葉を用いて、その事態を後押した人々が日本にも多くいたからである。
自分がいま、どのような時代に生きているかを知り、時代の奔流に流されず、聖書テキストと真摯に向き合う。そして、自分はいかなる生き方を選ぶべきかを考えなければならない。その時、一つの基準になるのは、「互いに愛を保つ」(Iペトロ4:7)ために何をすべきか、という問いだと思えてならない。
本書の一部は、著者が所属する研究所の紀要等において2015年以降に発表した拙論や研究ノートを土台としている。本書に組み込む際、初出の原稿に大幅な加筆、修正を加え、本文のみならず、注も新たに作成し、補強した。
出版社: 一麦出版社
発売/発行年月: 2024年12月
判型: A5
ページ数: 410
聖書註解ペトロの手紙一