ニコル・オレーム『貨幣論』とその世界 知泉学術叢書37(通巻38)

  • ニコル・オレーム『貨幣論』とその世界  知泉学術叢書37(通巻38)
ニコル・オレーム(1320/22-82)がアリストテレス倫理学を踏まえ,貨幣の起源,本性,権利,改変について考察した論考である。2部と3部では訳者の解説を付す。
第1部は『貨幣論』の初の全訳である。多くの引用文献の出典や関連情報について詳細な注を付けて提供する。
第2部はオレームの生涯や主要な業績と手稿の保存状況,さらに『貨幣論』の評価とその影響について解説する。
裕福でない家庭に生まれ,パリ大学神学部で博士号を取得。フランス王家で太子シャルルの助言と指導にあたり,その後,多くの要職を経て権力中枢に関わる。その中で貨幣の社会的・経済的要因と,貨幣に関わる権力の狙いとその破壊的な実態を経験する。とくに貨幣改定が暴政による王政の崩壊を招き,その収奪行為は王の子孫にまで害を及ぼした。その経験により本書は執筆された。
第3部では疫病と戦争に象徴される彼の生きた14世紀中頃の北フランス世界の歴史的環境について考察する。
貨幣はなぜ造られたのかに始まり,貨幣の素材とデザイン,製造は誰が担ったのか。そして貨幣間比率や貨幣名目値・貨幣重量とデザイン変更などは如何になされたのか。これらの問題について歴史的な視点と現実に即した考察を交えて,複雑でさまざまな思惑のなかで展開する貨幣の実態に迫る。ヨーロッパだけでなく東洋や日本にも存在する歴史における貨幣問題。それを正確に分析するのは難しい。その意味でも本書は貴重な一書である。

はじめに

第1部 『貨幣論』全訳
 凡例
 序
 第1章 貨幣はなぜ発明されたか
 第2章 貨幣にはいかなる素材がよいか
 第3章 貨幣の素材とその混合の多様性について
 第4章 貨幣の形態とデザインについて
 第5章 貨幣は誰の責任で製造するのか
 第6章 貨幣そのものは誰に帰属するのか
 第7章 貨幣の製造は誰が負担するのか
 第8章 貨幣の改定全般について
 第9章 貨幣デザインの改定について
 第10章 貨幣間比率の改定について
 第11章 貨幣名目値の改定(デノミネーション)について
 第12章 貨幣重量の改定について
 第13章 貨幣素材の変更・改定について
 第14章 貨幣の多項目改定について
 第15章 君主が貨幣の改定から利益を引き出すことは不当であることについて
 第16章 貨幣の改定に利得を求めるのは自然に反することについて
 第17章 貨幣の改定に基づく利得は高利より悪いことについて
 第18章 そのような貨幣改定は貨幣の本性から見る限り許されざることについて
 第19章 貨幣の改定実施によって生じる君主の不利益について
 第20章 社会全体に関わる不利益・不都合について
 第21章 社会の一部分に関わる不利益・不都合について
 第22章 そのような貨幣改定を社会は実施しうるか否か
 第23章 君主は貨幣を改定しうるとどこで断言されるのか
 第24章 以上に述べたことに対する回答―全般的結論
 第25章 暴君は長く君臨できないことについて
 第26章 貨幣改定から利得を引き出すことは王権全体に損失をもたらすことについて

第2部 オレーム『貨幣論』解題
 1. 生涯
 2. 業績
 3. 手稿と刊本
 4. 『貨幣論』の論点と結論
 5. 影響と評価

第3部 オレームの世界――14世紀の北フランス
 第1章 貨幣
 第2章 戦争
  1. ヘンリー3世の大陸遠征とパリ条約
  2. ギュイエンヌ戦争
  3. サン・サルドス戦争
  4. カペ家の断絶とヴァロワ家の王位継承
  5. ロベール・ダルトワ事件
 第3章 統治機構と権力者
  1. 機能分化と機構の形成
  2. 北西派,中南派,ブルゴーニュ派
  3. 法曹エリートの活躍
 第4章 政争の場――君主政管理の挑戦と失敗

おわりに
家系図
グラフ:金マール価格・銀マール価格
表:フランス王の金貨・銀貨
索引


金尾 健美 訳著

ジャンル 歴史 > ヨーロッパ中世史
シリーズ 知泉学術叢書
出版年月日 2025/04/25
ISBN 9784862854315
判型・ページ数 新書・170ページ

出版:知泉書館


ニコル・オレーム『貨幣論』とその世界 知泉学術叢書37(通巻38)

2,970円(本体2,700円、税270円)

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