証聖者マクシモスの哲学
人間・自然・神の探究
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「人間とは何か」「わたしは何を根拠にして生きているのか」という問いを,マクシモス(580頃-662)に導かれながら探求し,その問いが「イエス・キリストとは何か」という問いと通じることが明らかにされる。
それはパウロの「わたしのうちでキリストが生きている」という言葉に象徴されるように,多くの使徒や教父たちがイエス・キリストとの原初的出会いを通して,新しい人間として誕生する。その経験とイエスの受肉・受難・復活とが深く響き合い信仰が成立する。その背景には神人的エネルゲイアの働きがあり,それにより人間探求と神探求,そしてロゴス・キリスト探求という三者は根源的に深く結び付けられる。
キリスト教の教理を対象的で客観的なものとして捉えるのではなく,新たな人間へと変容していく生動的な生きた経験として理解するなら,そこには哲学や倫理学,そして行為論と意志論にかかわる普遍的な問題がもつ真実で豊かな姿が現われてくるであろう。
著者はアウグスティヌス研究から東方のニュッサのグレゴリオスの探究をへて,東方神学を集大成した証聖者マクシモス研究に沈潜することにより,生きた信仰の世界を愛智の道行としての哲学的視点から解明する。
本書は人間と自然と神の問題をマクシモスの哲学を解読しつつ,多くの教父の言説を活用して明らかにした半世紀に及ぶ教父研究の集大成である。
はしがき
はじめに
第一章 原初的出会いの経験から,その根拠へ
一 探究の端緒としての信
二 パウロの証言についての証聖者マクシモスの解釈
三 信の再帰的かつ重層的構造
四 「ロゴスの受肉」(キリストの神人性)を証示するもの
五 キリストの名の発見
第二章 人間の「善く在ること」の成立をめぐって
一 存在(在ること)の三つの階梯
二 罪の逆説的な意味
三 神の生成・顕現のかたち
四 愛の傷手
第三章 存在の次元における罪の問題
一 情念(パトス)の生起への問い
二 創造と罪との原初的関わり
三 情念の変容と再形成
四 悪とは何か
五 存在の次元における罪
第四章 身体ないし身体性の問題
一 問題の提示
二 魂と身体との同時的生成
三 魂の先在説に対する批判
四 「神的ロゴスのうちなる知」の語られるゆえん
五 身体ないし身体性の意味
第五章 愛による諸々のアレテーの統合
一 アレテーの重層的な構造
二 愛によるアレテーの統合の階梯
三 神の生成・顕現のかたち
第六章 創造と再創造――人間の役割とロゴス・キリスト
一 自然・本性的紐帯としての人間
二 根源的結合力について
三 創造の持続と展開・成就への道
四 五つの異なりの結合・一体化への道
五 キリストによる「五つの異なりの結合・一体化と再統合」
第七章 「キリストの復活」とタボル山における「主の変容」
一 新たな探究のはじめに
二 証聖者マクシモスのロゴス・キリスト論の概要
三 キリストとの「原初的出会い」の場に立ち帰って
四 主の変容と使徒的経験
第八章 ロゴス・キリストの十字架と復活――神的エネルゲイア・プネウマの経験を問い披く
一 信とは,殺された神の「われわれのうちなる最初の復活」
二 「十字架と復活」の象徴的な意味
三 キリストの十字架は根拠のしるし・象徴
四 「万人の罪の贖い,救い」の普遍的意味
五 「キリストの十字架」と「われわれの十字架」との内的関わり
六 十字架の階梯と「キリスト的かたち」の形成
第九章 全一的交わり(エクレシア)とロゴス・キリストの現存
一 創造の収斂点としての人間
二 他者との善き関わりと行為の構造
三 神的エネルゲイアの現存をめぐって
四 「キリストの体」としてのエクレシアへの参与
五 キリストの受苦とわれわれの受苦との関わり
第一〇章 受肉の現在――神の憐みの先行
一 信の到来と新しい人の誕生
二 ロゴス・キリストの先在
三 受肉の現在―― 十字架と復活との「今」
四 創造と受肉の神秘との前に
あとがき
注
参考文献
索引
判型・ページ数 A5・344ページ
著者 :谷 隆一郎
出版:知泉書館
2022/03/10
証聖者マクシモスの哲学
人間・自然・神の探究