聖書学古典叢書 石器時代からキリスト教まで 唯一神教とその歴史的過程

  • 聖書学古典叢書 石器時代からキリスト教まで 唯一神教とその歴史的過程
近現代聖書学の古典的名著シリーズ、唯一神教が生まれる歴史的プロセスを詳述

原始時代からキリスト教誕生に至るオリエント文化・宗教の実態を、言語学・考古学の豊富な資料を駆使しながら解明。唯一神教が生まれる歴史的プロセスを実証的に分析した、聖書考古学の古典。死海文書ほか戦後の考古学的発見の成果も踏まえた最終版から、本邦初訳。

【目次】

序言/緒論

第一章 歴史における新しい地平
 A.考古学における革命
 B.古代近東文書資料の発見と解釈
  1.発見と解釈――その歴史的概観
  2.文書資料の解釈における言語学的、文献学的方法
 C.古代近東出土の非文書資料の発見と解釈
  1.発見と方法論
  2.考古学的データの歴史学的解釈
 D.口誦および文書による歴史の伝達
  1.口誦伝承の特徴
  2.文書資料の伝達

第二章 有機的歴史哲学を目指して
 A.歴史哲学の一般的傾向
  1.ヘーゲルから社会学者まで
  2.歴史哲学における百科事典的・分析的傾向
 B.歴史的決定論の現今の諸側面
 C.歴史の認識論
 D.歴史の基底にあるいくつかの基本的原理
 E.有機的歴史哲学を目指して

第三章 プラエパラティオ(準備)
 A.最古の時代から紀元前17世紀までの近東における
   物質文明の発展
  1.石器時代
  2.銅石器時代と灌漑文化
  3.前期および中期青銅期時代――メソポタミア
  4.前期および中期青銅器時代――エジプト
  5.前期および中期青銅器時代
    ――パレスティナ、シリア、小アジア
 B.前期および中期青銅器時代の宗教生活
  1.原始宗教の本質と発展
  2.紀元前3000年から1600年までのエジプト宗教
  3.紀元前3000年から1600年までのメソポタミア宗教

第四章 イスラエルが子供であったとき……
 A.イスラエルの諸起源に関する古代オリエントの背景
  1.紀元前1600–1200年の政治的、文化的背景
  2.紀元前1600–1200年の宗教および思想の背景
 B.イスラエルの諸起源のヘブライ的背景
  1.地理的、人種的背景
  2.宗教的背景
 C.モーセの宗教
  1.文書資料
  2.イスラエル伝承の歴史的基礎
  3.モーセと唯一神教

第五章 カリスマとカタルシス(霊の賜物と浄化)
 A.イスラエルのカリスマ的時代
 B.統一王国と預言者運動の開始
 C.分裂王国とカリスマ的預言者
  1.恍惚預言者の時代
  2.吟遊預言者の時代
 D.カタルシス

第六章 時満ちて……
 A.ギリシア文化の台頭と拡散
 B.ユダヤ教とヘレニズム時代の宗教生活
 C.ヘレニズム時代のユダヤ教における非ギリシア的潮流
 D.キリストなるイエス
  1.文書資料
  2.イエスの宗教

エピローグ/年表/索引/監修者のことば(木田献一)


【監修者のことば】

 本書『石器時代からキリスト教まで』はそのボリューム、取り上げている領域の時代的・地理的広さ、いずれの点をとっても、著者ウィリアム・フォックスウェル・オールブライト(1891.5.24−1971.9.19)の主著であり、また本書をもって聖書考古学は確立、そのピークを迎えたとも言える。聖書学における古典的名著の一つと呼ぶにふさわしい。
 本書が聖書考古学のピークと言ったのは、この後、聖書考古学界に「発掘史料・古文書に果たして歴史的事実を知る上で使える資料があるのか」という歴史懐疑主義の思潮が生まれ、ファン・セータースやトンプソンらに代表される、聖書の記述の歴史性(historicity)をスケプティックに否定する態度をとる研究者が出てきたためである。
 しかし、聖書学が扱っているのは歴史と言うよりは宗教の伝承である。イスラエル宗教は「超越者の啓示」という超越的源泉を持つ。アブラハム、モーセの受けた啓示という源泉が、現代に生きる我々にまで伝承されているのである。この超越的源泉を共有していると信じるところに、聖書と他の古代文書との違いがある。権力の伝承は超越性を欠いているので、元の権力基盤がなくなれば解体してしまう。啓示伝承が継承されていることを認めなければ、そうした他の権力神話と一緒になってしまう。イスラエル宗教の根拠である啓示を認めなければ、それはもうただの神話であり、聖書も倫理的に優れてはいるがそれだけの古代文書にすぎず、現代人とは何ら直接の関係を持たない単なる神話伝承の集成にすぎなくなってしまう。
 確かに理性の立場からは「啓示」はつまずきの石となる。理性の立場からはどうしても歴史主義に傾きたくなる。しかし、あえて理性に逆らい、つまずきを受け止め、超越性を認める。やはり啓示を否定した自由主義神学に対抗して神の啓示を認めたバルトの弁証法神学のように、オールブライトは聖書学においても近代主義に反発し、石器時代にまで遡る根拠を持ちつつ、啓示伝承を認め、超越者の啓示が発端となる唯一神教は、単なる歴史主義で研究しうる他の宗教とは根本的に違うという視座に立っている。その基本姿勢にこそ、オールブライトのこの古典的名著を現代に刊行する大きな意義があると思う。

 本書を訳した小野寺幸也氏は、1941年11月6日生まれ。中学卒業後三菱日本重工業川崎工場で働きながら定時制高校に通い、1962年国際基督教大学に入学。66年青山学院大学大学院神学科修士課程に進み、68年修士論文「ミリヤムの歌――出エジプト記15:1–18の研究」で神学修士取得。70年秋から74年にかけて留学したジョンズ・ホプキンス大学で最晩年のオールブライトに師事、その葬儀にも出席している。『考古学とイスラエルの宗教』(日本キリスト教団出版局、1973年)の訳者あとがきには、その謦咳に接する機会を得た小野寺氏により、オールブライトの人となりが記されている。
 1975年中近東文化センター主任研究員となるが、76年に病を得、大きな手術をされた小野寺氏は、以後もオールブライトの『古代パレスティナの宗教――ヤハウェとカナァンの神々』(日本キリスト教団出版局、1978年)を訳出、農村伝道神学校等で聖書考古学の講座を担当するなど精力的に活動しておられたが、88年秋に再び入院。病室でロジャーソン『新聖書地図』(三笠宮崇仁監修、朝倉書店、1988年)の校正を終えたのち、翌年2月意識不明となり、同26日、47歳の若さでこの世を去った。日本の学界を牽引するはずだった優秀な若手研究者の早すぎる死は、返すがえすも残念なことであった。
 小野寺氏が晩年取り組んでおられた、実質上最後の仕事が、恩師オールブライトの主著の訳出であった。諸事情から時間が経ってしまったが、ようやく「聖書学古典叢書」の一冊として本書の出版にこぎつけたことは、青山学院時代より親しくさせていただいた監修者にとっても大きな喜びである。

2013年2月20日
木田献一



【訳者紹介】小野寺幸也(おのでら・ゆきや)
1941年山梨県に生まれる。1966年国際基督教大学卒業。1968年青山学院大学大学院修士課程修了。神学修士。1974年米国ジョンズ・ホプキンズ大学大学院博士課程修了。1975年青山学院大学大学院博士課程修了。(財)中近東文化センター主任研究員を経て1989年逝去。北西セム語学専攻。
著書 『文字の歴史――中近東における起源と発達』(中近東文化センター、1982年)
訳書 A.ヴァイザー『旧約聖書緒論』(共訳、聖文舎、1970年)、W. F.オールブライト『考古学とイスラエルの宗教』(日本キリスト教団出版局、1973年)、同『古代パレスティナの宗教――ヤハウェとカナァンの神々』(同、1978年)、M.パールマン『聖書の発掘物語』(山本書店、1987年)、J.ロジャーソン『新聖書地図』(図説 世界文化地理大百科、朝倉書店、1988年)

【監修者紹介】木田 献一(きだ・けんいち)
1930年岡山県生まれ。青山学院大学キリスト教学科卒業。東京教育大学大学院哲学専攻修士課程修了。ニューヨーク・ユニオン神学校修士課程修了(STM取得)。ミュンヘン大学にてDr.Theol.取得。2002−2010年山梨英和学院院長・同大学学長。2013年、本書刊行直後の4月14日逝去。
著書 『イスラエル預言者の職務と文学』(日本キリスト教団出版局、1976年)、『旧約聖書の預言と黙示』(新教出版社、1996年)、『平和の黙示』(新地書房、1991年)『古代イスラエルの預言者たち』(清水書院、1999年)他。
訳書 Th. C.フリーゼン『旧約聖書神学概説』(共訳、日本キリスト教団出版局、1969年)、M.ブーバー『神の王国』(共訳、同、2003年)、同『油注がれた者』(共訳、同、2010年)他。


出版:日本キリスト教団出版

聖書学古典叢書 石器時代からキリスト教まで 唯一神教とその歴史的過程

6,600円(本体6,000円、税600円)

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