〈ウェストミンスター信仰告白〉歴史的・分析的註解

  • 〈ウェストミンスター信仰告白〉歴史的・分析的註解
わが国初にして世界的水準の本格的註解

本信仰告白に取り組む教職,神学生,
知解を求める長老・信徒にとって
必読の書となるであろう.

理解を深める巻末の「資料篇」,さらに「図表」(6点)を附録

 ウェストミンスター信仰告白を歴史的,分析的に解釈するために資するものとして,著者が作成したいくつかの文献の詳細な目次を掲載した「資料篇」,および「図表」(6点)を附録とする意図は,ウェストミンスター信仰告白の解釈にあたって,資料が取り扱う事項の概要や人物・事柄の歴史的位相をある程度念頭におくことがきわめて重要だからである.これらの資料と図表は,また,これまでに出版された信仰告白の註解書,研究書類を学び評価するための,共通の参照枠(frame of reference)を提供するものとなることが期待される.

目次

はじめに
序説
 1. ウェストミンスター信仰告白とは何か
 2. 歴史の中のウェストミンスター信仰告白
 3. ウェストミンスター信仰告白の註解書と研究書
序論
 1. ウェストミンスター信仰告白のテキスト
 2. 註解の方法論的問題―その⑴ 歴史的解明
 3. 註解の方法論的問題―その⑵ 分析的解明
  ペトルス・ラムスの弁証法 全体図(1576)
  ウェストミンスター信仰告白の二分法的構造

註解
第一章 聖書について
 1 節 文書化された神の啓示― 聖書の内的規定
 2 節 聖書正典― 聖書の外的規定
 3 節 外典―その本質と,教会における位置
 4 節 聖書の権威― その客観的根拠
 5 節 聖書の権威の受容―主観的側面
 6 節 聖書の十分性―聖書の完全性の客観的側面
 7 節 聖書の明瞭性―聖書の完全性の主観的側面
 8 節 聖書の原典と翻訳―書物としての聖書の客観的側面
 9 節 聖書解釈の無謬の規範― 聖書解釈に関する主観的側面 ⑴
 10 節 聖書解釈における至上の審判者― 聖書解釈に関する主観的側面 ⑵ 
第二章 神について,また,聖三位一体について
 1 節 神の本質と属性
 2 節 創造者である神と被造物との関係
 3 節 三位一体の神
第三章 神の永遠の聖定について
 1 節 聖定の本質
 2 節 神の聖定と予知・予見との関係
 3 節 予定(Predestination)と前定(Fore-ordination)
 4 節 予定と前定の不変性
 5 節 神による選び(永遠的)
 6 節 神の民の栄光への過程(時間的)
 7 節 選びの民以外の者の定め
 8 節 予定の教理の取り扱い方と用益
第四章 創造について
 1 節 万物の創造
 2 節 人間の創造 
第五章 摂理について
 1 節 摂理の本質
 2 節 摂理における万物の第一原因と第二原因
 3 節 摂理と手段の関係
 4 節 理性的被造物の堕落・罪と,神の摂理の関係
 5 節 選びの民の罪と,神の摂理
 6 節 選びの民でない者たちの罪と,神の摂理
 7 節 神の摂理の対象
第六章 人間の堕落について,罪について,また,その罰について
 1 節 最初の先祖たちの罪
 2 節 最初の先祖たちの罪の結果
 3 節 最初の先祖たちの罪の,全人類に対する影響
 4 節 全人類の罪の実相
 5 節 本性の腐敗の,再生者における残存
 6 節 人間の罪と罰
第七章 人間との神の契約について
 1 節 理性ある被造物との神の契約
 2 節 行いの契約―第一の契約
 3 節 恵みの契約(第二の契約の実相)
 4 節 恵みの契約の別称「遺言」
 5 節 旧約― 律法の時代における恵みの契約の執行
 6 節 新約―福音の時代における恵みの契約の執行
第八章 仲介者キリストについて
 1 節 仲介者キリストとその民
 2 節 仲介者キリストの本性
 3 節 主イエスの,仲介者の職務への召し
 4 節 主イエスによる仲介者の職務の遂行― 謙卑と高挙
 5 節 主イエスが仲介者であるということの意味
 6 節 贖いの御業の歴史的一回性と旧約
 7 節 キリストの二性一人格と仲介の御業
 8 節 キリストによる,その民への贖いの適用
第九章 自由意志について
 1 節 自由意志の本質
 2 節 無罪の状態における自由意志
 3 節 罪の状態における自由意志
 4 節 恵みの状態における自由意志
 5 節 栄光の状態における自由意志
第十章 有効召命について
 1 節 有効召命の本質
 2 節 有効召命の成立根拠
 3 節 通常の方法が妥当しない選びの民
 4 節 選びの民でない人々と召命
第十一章 義認について
 1 節 義認の本質
 2 節 義認における信仰の特性
 3 節 義認における神の正義と恵み
 4 節 義認の実現
 5 節 神と義とされた者たちの罪との関係
 6 節 旧約と新約における義認の同一性
第十二章 養子とすることについて
第十三章 聖化について
 1 節 聖化の本質
 2 節 この世における聖化の現実
 3 節 聖化の完成をめざして
第十四章 救いに導く信仰について
 1 節 神の霊的賜物としての信仰
 2 節 信仰の多様な働き
 3 節 信仰の動態
第十五章 命にいたる悔い改めについて
 1 節 「命にいたる悔い改め」の教理の基本的性格
 2 節 悔い改めの本質
 3 節 悔い改めと赦しの関係
 4 節 罪の大小と悔い改め
 5 節 全般的な悔い改めと個別的な悔い改め
 6 節 私的悔い改めと公的悔い改め
第十六章 善い行いについて
 1 節 善い行いの条件
 2 節 善い行いの実相
 3 節 善い行いにおける聖霊と人間
 4 節 余功の教理の全否定
 5 節 信者の善い行いの限界
 6 節 限界ある善い行いの,神による受け入れ
 7 節 非再生者の「善い行い」
第十七章 聖徒の堅忍について
 1 節 聖徒の堅忍の本質
 2 節 聖徒の堅忍の基礎
 3 節 聖徒の堅忍の付帯状況
第十八章 恵みと救いの確信について
 1 節 偽りの確信と真の確信
 2 節 恵みと救いの確信の基礎
 3 節 真の信者と無謬の確信の二重の関係
 4 節 真の信者の,確信の動揺と回復
第十九章 神の律法について
 1 節 神による道徳律法の授与
 2 節 道徳律法と十戒
 3 節 儀式律法の授与
 4 節 司法律法の授与
 5 節 道徳律法に対する従順の義務
 6 節 真の信者たちと道徳律法の関係
 7 節 道徳律法の用益と福音の恵みの関係
第二十章 キリスト者の自由と,良心の自由について
 1 節 キリスト者の自由
 2 節 良心の自由
 3 節 キリスト者の自由の乱用
 4 節 キリスト者の自由と,この世的,教会的な権能の関係
第二十一章 宗教的礼拝と安息日について
 1 節 神礼拝の原理
 2 節 正しい神礼拝
 3 節 祈りの本質的性格と,祈りのしかた
 4 節 祈りに関する付帯条件
 5 節 宗教的神礼拝の要素
 6 節 福音のもとでの神礼拝のあり方
 7 節 キリスト教安息日
 8 節 安息日の守り方
第二十二章 合法的誓約と誓願について
 1 節 合法的誓約の本質
 2 節 誓約のあり方
 3 節 誓約の重大性
 4 節 誓約実行の根本的条件
 5 節 誓願の本質
 6 節 誓願のあり方
 7 節 誓願に関する禁止事項
第二十三章 この世の為政者について
 1 節 為政者職の制定
 2 節 キリスト者と為政者職
 3 節 為政者の権能と教会の関係
 4 節 為政者に対する国民の義務
第二十四章 結婚と離婚について
 1 節 結婚の制度
 2 節 結婚制定の目的 
 3 節 結婚する人の条件
 4 節 近親者間の結婚の禁止
 5 節 罪による結婚関係の不成立
 6 節 離婚に関する制約
第二十五章 教会について
 1 節 目に見えない,公同的あるいは普遍的教会
 2 節 目に見える教会の本質と特性
 3 節 目に見える教会とキリスト
 4 節 目に見える教会に質的差
 5 節 目に見える教会の限界と可能性
 6 節 教会の頭
第二十六章 聖徒の交わりについて
 1 節 聖徒たちの,キリストとの交流と,聖徒同士の交わり
 2 節 個々の教会の聖徒たちと聖徒の交わり
 3 節 聖徒の交わりに関する制約
第二十七章 聖礼典について
 1 節 聖礼典の本質と目的
 2 節 しるしと意味されている事柄との関係
 3 節 聖礼典の恵みと効力の起源
 4 節 新約の聖礼典
 5 節 旧約の聖礼典の実体
第二十八章 洗礼について
 1 節 洗礼の原理
 2 節 洗礼の正しい執行方法
 3 節 洗礼の水の用い方
 4 節 洗礼の対象
 5 節 洗礼に対する誤った態度
 6 節 洗礼が有効となる時としかた
 7 節 洗礼の一回性
第二十九章 主の晩餐について
 1 節 主の晩餐の本質と用益
 2 節 主の晩餐におけるいけにえ
 3 節 主の晩餐の正しい執行のしかた
 4 節 主の晩餐の誤った執行のしかた
 5 節 外的品々と十字架につけられたキリストとの関係
 6 節 全実体変化説に対する糾弾
 7 節 ふさわしい陪餐者とキリストの関係
 8 節 ふさわしくない者の陪餐
第三十章 教会譴責について
 1 節 教会役員の手による政治
 2 節 天国の鍵
 3 節 教会譴責の目的と必要性
 4 節 教会譴責の実施のしかた
第三十一章 シノッドとカウンシルについて
 1 節 教会会議の必要性
 2 節 為政者と教会会議召集の関係
 3 節 教会会議の役割と権威
 4 節 教会会議の可謬性(fallibility)
 5 節 教会会議が取り扱う事柄
第三十二章 死後の人間の状態について,また,死者の復活について
 1 節 死後の人間の状態
 2 節 生きている者たちの変貌と死者たちの復活
 3 節 終わりの日の復活の体
第三十三章 最後の審判について
 1 節 最後の審判の本質
 2 節 最後の審判の目的と結果
 3 節 最後の審判の日を秘めておくキリストの御心

資料篇
あとがき

あとがき

 ウェストミンスター信仰告白は,トリエント公会議開催に代表されるローマ・カトリック教会の「教会改革」と,それに起因するヨーロッパ諸国間の「宗教戦争」が繰り広げられる中で,イングランド教会およびスコットランド教会に共通するプロテスタント信仰を表明するために作られた信仰告白である.その作成にあたって最大の「論敵」は,当然のことながら,ローマ・カトリック教会であり,トリエント公会議の教令と『ローマ・カテキズム』に集約される,ローマ・カトリック教会の教理体系であった.

 トリエント公会議(1545 〜 1563)から約400 年後,ローマ・カトリック教会は,「教会の現代化」(アジョルナメント)を掲げて第二バチカン公会議(1962 〜 1965)を開催し,その結果,四つの「憲章」(Constitutio),九つの「教令」(Decretum),三つの「宣言」(Declaratio)を発布するにいたった.その後ローマ・カトリック教会は,1983 年に『カトリック新教会法典』,1992年に『カトリック教会のカテキズム』,2005 年には『カトリック教会のカテキズム要約』を公布し,第二バチカン公会議が決定した「現代化」の路線の具体的展開を図っている.これらの諸文書はすべて日本語に翻訳されているので,容易に入手できる.また,日本のカトリック中央協議会からは,『カトリック教会の教え』(2003),『カトリック教会のカテキズム要約』(2010)が出されている.これらのどの文書も内容も書物としての体裁も非常に素晴らしいものである.

 『第二バチカン公会議公文書改訂公式訳』(カトリック中央協議会,2013)の「総序」を執筆した高見三明(当時,長崎大司教)は,その中で,第二バチカン公会議召集にいたった背景として,激変する世界の状況という外的要因を指摘しつつ,カトリック教会内部の重要な運動として五つを挙げ,それぞれについて略述している.すなわち,1.典礼運動,2.聖書学の発展,3.教父学の発展,4.教会一致運動,5.新しい神学の動向,である.さらに高見は「結びに」において,ウェストミンスター信仰告白に取り組んできたわれわれにとって非常に興味深く,重要なことを語っている.

 全体として,第二バチカン公会議公文書には,それまでの公会議に見られた「定義」も「信仰箇条」も「破門」もない.教義を土台とするが,現実的であるよう努力し,何よりも現代の人々の期待にこたえるよう努力した.準備委員会の要綱を支配していたスコラ神学よりも,救いの歴史と三位一体の神学を視野の中に入れた,聖書的,教父的,歴史的,教会一致的アプローチを選んだ.

 ローマ・カトリック教会がこのようにして「現代化」を全面的に展開する事態(多くの争い,混乱,失望を併発しつつではあるが)に直面しながら,プロテスタント教会は,「宗教改革」(ecclesia reformata semper reformanda)を遂行する力も意欲も喪失し,一致した信仰の告白を生み出せる状況にないことは否定しがたい事実である.しかし,プロテスタント諸信仰告白,とりわけウェストミンスター信仰告白には,燃え尽きてしまうことのない火種が残っていることも確かである.われわれとしては,ローマ・カトリック教会の「現代化」にいたるまでの努力に謙虚に学びつつ,古典的なプロテスタント信仰告白を単に墨守するのではなく,その豊かな遺産を現代において生かす道を切り拓いていきたいと切に願うものである.

 本註解書を上梓するにあたり,ウェストミンスター神学者会議と,それが生み出した諸文書(信仰告白,大小教理問答,礼拝指針,教会政治規程などの,いわゆるThe Westminster Documents)の研究に思いも寄らなかったしかたで足を踏み入れることになってから50 余年の,山あり谷ありの日々を思い起こさずにはいられない.この間,紆余曲折の歩みを共にし,常に支えてくれた妻,兆美には,感謝以外の何ものもない.また,長年にわたり,ウェストミンスター信仰規準の拙訳はじめ,ウェストミンスター神学者会議関連の私の何冊もの書物を出版し,このたびは本註解書を世に問うことを可能にしてくださった一麦出版社社長,西村勝佳氏には,単なる社交辞令としてではなく,主にある御厚情に改めて心からお礼を申し上げたい.

soli Deo gloria

2022年10月31日 宗教改革記念日に 著者 松谷好明

【著者紹介】
松谷好明 MATSUTANI Yoshiaki
1944年福島県生まれ。一橋大学社会学部卒。神戸改革派神学校(3年中退)、英国トリニティ・カレッジ神学校ならびにブリストル大学大学院(Dip. Th.)に学ぶ。日本キリスト改革派教会(説教免許)、日本キリスト教会(正教師)、日本基督教団(正教師)に所属し、福島、ロンドン、福岡、東京、館林、河内長野で45年間伝道に従事、2016年3月隠退。元聖学院大学総合研究所特任教授(ピューリタニズム研究室長)。学術博士(Ph. D.)。著訳書『ウェストミンスター神学者会議の成立』『ウェストミンスター神学者会議――その構造化』『ウェストミンスター神学者会議議事録〈抄〉』『ウェストミンスター信仰規準』『改訂版ウェストミンスター信仰規準』『ウェストミンスター礼拝指針――そのテキストとコンテキスト』『ウェストミンスター信仰告白註解』(上下)『キリスト中心の講解説教』『ピューリタン神学総説』『キリスト者への問い』『改訂版キリスト者への問い』『〈三訂版〉ウェストミンスター信仰規準』(以上、一麦出版社)ほか、著訳書多数。


出版:一麦出版社
2023年2月

〈ウェストミンスター信仰告白〉歴史的・分析的註解

11,000円(本体10,000円、税1,000円)

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